フィクションノート(4)クールボックスの中の魚

クールボックスの中の魚

クールボックスの中の魚の目に映っているのは、冷たい氷と歪んだ四角い風景。初めて見た青い空に白いものが浮いているが、それが雲だということを魚は知らない。

魚の目はつり上げられたときに桟橋に叩き付けられ、ひどく傷めて血が浮かんでいる。逃げようと必死でもがいたが釣り針は外れず、魚は攩網で掬い上げられてしまった。

魚は考えた。このあとどうなるのか。

凍った水の欠片の中で冷やされて、自分はどこに運ばれるのか。

魚は自暴自棄な気分になったが、本当は水の中がそんなに好きでもなかった。特に何も考えていたわけではないが、人間がときどき空気の中にいるのがイヤになるように、魚も水の中にいるのがイヤになることがあるのだ。

こうして氷の中にいるのも、たまにはいいかもしれない。魚は面倒くさくなってそう考えてみる。

このまま意識が遠くなれば、何もかもとオサラバだ。

魚に弔いはない。

エビがタイに食われるのも、魚が人間に食われるのも同じことだ。

そう考えていたら、なんだか清々しい気分になってきた。

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