フィクションノート(5)世の中の裏側

私は世の中の裏側にいる。

世の中の裏側にいて世の中のほころびを切り貼りしているのだが、この仕事はなかなか大変だ。

この世の中というものは竹籤と和紙でできたハリボテみたいなもので、すぐ破れてしまうのだ。私はハリボテの中にいて破れたところを繕っているのだが、世の中にだって太陽が強烈に降り注ぐ時もあれば雨にぬれる時もある。びしょびしょの和紙をいくら補強しても水に溶けてしまって悪戦苦闘だ。

また世の中のハリボテを破ろうと指を突っ込んで来る悪ガキ共もいる。そういう奴は内側カラハリでちくんと刺してやれば懲りる奴がほとんどだが、ときどき石を投げて来る悪質な奴がいるから閉口する。世の中が破けて困るのはむしろそういう奴なのだが、そういう奴ほど良くわかってないのだ。

私はもう何百年も世の中の裏側にいて、そろそろ面倒くさくなっているのだが、どうだい君、君なんか世の中の裏側に向いてるんじゃないかな。

歓迎するぜ。

報酬は特にないけど補修用の和紙と糊はいくらでもある。一度なっちまったらなかなかやめられないのが玉に瑕だが、まあどうってことはない。仕事に追われて二百年くらいすぐ過ぎちまう。

どうだい、面白そうだと思わないかい?

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