フィクションノート(1) 私はある朝目覚めなかった

フィクションノート(1)

私はある朝目覚めなかった

私はある朝目覚めなかった
起きて布団から出なかった
歯を磨かず顔を洗わなかった
私はその朝死んでいた
夜になっても死んでいた

その次の日も死んでいた
私は目覚めず死んだまま
ここは静かだと思っていた
生きていても一人、死んでも一人
ならば何を孤独というのだろう

なぜ一人で死ぬことを
そんなに恐れるのかが分からない
生きていても死んでいても一人だから
一人でもみんなでいても同じじゃないか

私はその朝死んでいた
死にながら私は、ここは静かだと思っていた
朝から晩まで静かな場所で
私はいつまでここにいる?

私がある朝目覚めると
私はもう私ではなかった
黄色い菜の花の咲き誇る畑で
黄色い蝶になって飛んでいた
私は花の蜜を吸い、満足して飛び去った
私はひらひらと舞い上がり
青い空へと昇って行った
強い風に吹き飛ばされて
私はばらばらになっていた

私はある朝死んでいた
蝶の私が死んでみても、
悲しんでくれる人もいない。
悲しんでくれる蝶もいない。

私はどこからどこへ行くのか
少しだけそんなことを考えた。

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